日々を丁寧に暮らして

ゆーすげのセカンドライフ

挽歌・・・母の思い出

 正常と呆けしを行きつ戻る母施設暮らしで何を思うや
 又来てね幼子のごと人恋うる母は孫娘につきて離れず
 ふたとせを母は施設の孤独から逃げるがごとく呆けていけり
 思慮深き母であったに頑是無く緑のリング欲ふるが哀し
 せめてものなぐさめなりと菜の花の野を押していく母の車椅子
 車椅子押して菜の花黄は喜なり空は藍いろ 生きねばならず
 半ば惚け老いし母なりそのうちと無為に過ごしし時をば惜しむ
 たらちねの母の痴呆は進みいし夕陽の高速道路を帰る
 哀しみをやさしさにするコツを知る静かに明ける初なつの朝
 天の川七夕の夢に現れし 綺羅星ふたつ父母の星

 麻酔切れ術後の痛みにまどろめる母を看ているいつくしむごと
 五十路なる私今なお母恋しものも言わずば寂しさ積もりて
 帰るねと囁きかければ眠りつつごめんねと手を合わす母なりき  
 
 死に近き母をあはあは語るらく今は静かで明るく冥し
 一日の終わりのごとく消え果てし母の行方はどこかと惑う
 目覚めずに逝去たら楽になろうにと眠りにつきぬ一つ目の夜
 例えたら桔梗がぽっと咲くように若かりし母日傘差し行く
 夏雲や母の浄土に咲きてあれ桔梗白蓮白百合の花
 きっちりと書き記されし家計簿は母の暮らしの跡を語りぬ
 凛として生きたる母の象徴は桔梗の花か蒼きこと深し
 思い出の母は笑顔のときありて厨に活けし赤きカーネーション
 夏光の歩道に延びる吾が影は虚脱状態にありて黙しぬ
 凌ぜん花燃えさかりゆく夏にありて母逝しより秋訪れぬ
 息とめて落涙堪える真昼中それぞれ親への想い語りぬ
 喪失の悲しみは静かに積もりゆく胸底深く流るるように

 故郷は血の呼ぶところ速く速くと吾を呼ばしむ母連れ帰れと
 ふる里は血の呼ぶところ母連れて帰りしことの不可思議思う
 母につき父連れて来し骨は鳴る母連れて来し大谷本病
 重ねゆく供花(くげ)に埋もれし母に送る最期の便りもう届きしか
 九頭竜の清き流れに架かりしはかの日の母への追憶のブリッジ

 頑張ろうそんな気持ちもわかなくてただコーヒーの冷めるを眺む
 久々に野に出て赤き萬珠沙華今日敬老の日をば悲しき

 ずっとこうしてきたように遍路道 異国の娘と二人で辿る
 写真額小さくまとまる母連れて四国巡礼春のお彼岸
 遍路して自分との対話続ければ 見えくるものは裡なる矛盾

 突然の容態悪化を知らされて走りし日から一年過ぎぬ
 母逝きて夢にも逢わず 夏盛りりょうぜん葛は散りしきるなり

 彼岸へと届かぬ思い延々と曼珠沙華咲く終わらない道
 父母の眠りし大和うるわしくススキは秋の陽をこぼしいる

 堂の裡逢いたき人は幾万の千手観音の中に居ませり

 ほとほとと夕べさみしく佇めば夥しくもりょうぜん花落つ
 誰もみな心に埋まらぬ穴を持つまるごと入れる箱などはなし
 
 人生はだましだましでいきましょか始めも終わりもしゃあないもんね
 
 2014.7.30に逝し母に捧げる
 

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